「鳥の歌いまは絶え ケイト・ウィルヘルム/酒匂真理子訳」創元SF文庫
積読本を読了。
種としての滅亡が定まった人類と生み出されたクローンの三世代の物語、という大雑把なあらすじは把握していたものの、読後の味わいがだいぶ予想外。
想像していたのは、もうちょっとリリカルな世界。語弊があるかもしれないが、少女漫画的SF世界というか。それこそ萩尾望都的なものを想像。
実際に味わった感想は、叙情的で瑞々しさがきらめいている根底には老成した諦念がうねっているような気配。春の野草的というか。芳しい苦味。
うまく表現できないので言葉遊びになってます。
一部は、どう抗っても滅びていくしかない人類。デイヴィッドを通して少しずつじわじわと沁みてくる絶望と諦観。おそらく彼が最後を迎えるであろう風景は、祝福されているようでもあり、私には仏教的にすら感じる。世界は、美しい。
二部はコミュニティの外の世界を知ったモリーの視点。無個性と共感から成立しているどろっとした安寧。前半の忘れられた世界の探訪と、後半でえぐられる平穏なディストピアの景色。知恵の実の物語でもあるし、ある種の魔女裁判にも見える。
三部は異端児マークの葛藤と冒険。新世界と再生。或いは、歪な父権母権社会と歪なオイディプス。解説にプロメテウスとオルフェウスの名称が出てくるが(この解説も面白い)、再生を担う彼はディオニソスかもしれない。三部に共通するのは神話の匂い。
希望漂うエピローグにも滅びの予兆を感じるのは、この神話的雰囲気からかもしれない。この作品の流れの一つが以前読んだ萩尾望都の「美しの神の伝え」かなあ、とも。
*
なんとなく読後に連想したのが「渚にて」「沈んだ世界」「漂流教室」「蠅の王」などでした。個人的には、夏休みって感じの諸作品です。