部屋の窓際

好きなものについて描いたり書いたり。

暑かった日の読書の記憶

休み明けでぐったりしていると同時にぼんやりしているので、一人連想ゲーム。

 

真夏読書の思い出のなかから、もう一度クソ暑い時期に読み返してみたい本を数点連想してみる。読書中はかなり興奮していたためか、一応付けている記録帳のメモがだいぶひどい。あまり恥ずかしくない部分だけ抜き書き。

 

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「闇の奥 コンラッド/黒原敏行訳」光文社古典新訳文庫

サラリとして力強い文章。

大変、読みやすくて面白かった。面白かったと言っていいのか。

地獄の黙示録の元ネタという説は知っていたし、植民地問題を提起しているとも聞いていた。あと、作者自体が差別意識を持っているという非難も。

 

作品の展開を並べ立てると「ある船乗りが、ある仕事を請け負って、文明化された地のその奥に赴き、ある人物に出会って、ある感慨(トラウマか)を抱いて帰国した話」。

という、ある意味とてもシンプルな骨格に様々な闇が絡みつく。

密林の蔦のように。大蛇のように。瘴気のように。

(白人から見た)未開の地アフリカの闇。植民地主義の生み出す闇。人種差別の闇(おそらく作者にその認識は無い)。単純で分かりやすい人間的欲望の闇。

それらの闇のその奥の奥にある闇。私の語彙力だと、心の闇という大変チープな表現になってしまうが。

 

熱帯地域の雰囲気に呑まれるような重っ苦しく湿っぽい粘つくような闇よりも、帰国後に体験するすぅっと心が冷えるような闇の方が印象深い。

 

暑苦しさにシンクロしているだけに、終盤の冷え冷えとした闇が刺さる。

 

  

 

 

 

侍女の物語 マーガレット・アトウッド斎藤英治訳」新潮社

真夏に図書館で借りた記憶。

閉架図書のため書庫から持ち出されてきたハードカバー。表紙の赤からして不穏。

女性が二足歩行の子宮である、と定められている世界。少し違うか。

いずれかの所有物である、とされている世界。いわゆるディストピア小説

しかも何が絶望感を増すかといえば、侍女たちに課される掟や義務などよりも、境界を一歩越えればごく普通の世界(あくまで我々の尺度だが)が存在しているということ。これほどの絶望があるだろうか。

 

これが書かれた当時はどうだったのだろう。

今、こんな夢物語は起こりえないなどと笑う人がいればよほど幸せな御仁だろう。

 

 

悪夢がめでたしめでたしに導かれるのか気になったから、真夏に夢中で読んだ。

クーラーが効きまくった部屋ではなく、少し汗ばむような部屋で。

主人公は一応は救われる。闇を抜けて光の中へ。多分。

主人公に光あれと思ったが、続編はまだ読めない。

 

 

 

 

「冷血 カポーティ/瀧口直太朗」新潮文庫

一度は読んでみようと思った作品。誰が冷血か。

図書館の文庫がボロボロ過ぎてもうそれだけで恐ろしげな雰囲気(言い掛かり)。

惨たらしい事件を主題としているので、面白いというのも気がひける。が、一度は読んでみるべき本かもしれない。死刑の是非については何とも言えないが。

  

実際に起こった惨殺事件とその犯人の逮捕、処刑までの記録。そして、微に入り細に入り調べ上げたそれぞれの人物像。彼らの日常と環境から精神面までをひたすら記す。それはもう、一本の幹から枝葉を辿り葉脈の一筋一筋まで透かすように。

おそらく多少は記録者であり作者であるカポーティの主観が混ざっているとは思うが、それぞれの記述は極めて物静かに進められていく。

 

何でもない日常。災いとしか言いようのないものに遭遇してしまった被害者。嫌悪とともに哀れみすら感じる加害者の生い立ちと異常性。言葉がまるで通じないのではないかと思う強烈な齟齬。それぞれの思惑で群がる人々。

違和感どころか既視感を抱く。テレビやネットであまりにも馴染みのある光景。

 

 

風通しはいいが蒸し暑さが残る部屋で読んでいた記憶。

派手さはないが淡々とし過ぎて逆にうなされるような気分。

 

 

 

ちょっと長ったらしくなったのでとりあえず三冊。

暑い日に熱いラーメンというように、うだるような暑さにはうなされるような書籍という組み合わせが好きなのかもしれません。