部屋の窓際

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読書メモ「パラドックス・メン」

 

 

パラドックス・メン チャールズ・L・ハーネス/中村融訳」竹書房文庫

 

盗賊(虐げられた人々を救ういわゆる義賊)であるアラールが、権力者の館から宝石を失敬しようとしてしくじるところからスタートするワイドスクリーン・バロック

 

アメリカ帝国(容赦の無い奴隷制度があったり王侯貴族があったりと、イメージはローマ帝国?)と東方連邦が対立し、色々とギリギリな世界。

 

正体不明の宇宙船から脱出し記憶を失ったまま発見され盗賊となった男アラール。

アメリカ帝国の実質支配者、帝国宰相ヘイズ=ゴーント。

ヘイズ=ゴーントに殺されたライバルの妻で、ヘイズ=ゴーントの妻ケイリス。

なんでも見通せる男(全てにアクセス出来る男?)メガネット・マインド。

フェンシング狂のターモンド将軍、サイコパス精神科医シェイ伯爵。

 

などなど、濃いキャラクターたちが地上だったり地下だったり月行ったり太陽行ったり時間を無視したり荒唐無稽に突っ走る物語。

古臭いと言われてしまえばそうかもしれないけれど(1953年の作品)、私は好きです。

ベスターの「虎よ、虎よ!」と同じ芳しい空気。

あとディレイニー「ノヴァ」にも感じる無茶苦茶な空気。

そしてラストはヴォークトの某作品をちょっと思い出す。

いかにもなスペースオペラ要素満載なんですが(ヘイズ=ゴーントの描写なんてとてもイメージしやすい)、超人類というキーワードの周囲には『文明の進歩』『人類の進化』それらの行き詰まりと避けられない『破滅&退化』という観念が漂っているようです。さらっとDNAの話題もあったな。


個人的に魅力的だなと思うのは女帝ファナ=マリア。

終盤のあの場面を映像化するとしたらとても美しいものになると思う。

 

永遠にさめない夢想にすべりこむのは、いまやなんと簡単なのだろう。 

 

 

帯にもある『これがワイドスクリーン・バロックだ!』に関する詳しい説明は解説に載っていて、そちらも読み応えがありました。