『デュオ』『呪界のほとり』『夜と泥の』『象られた力』の四篇。
「自生の夢」を読んでから買い集めていますが、もう困惑するくらい面白い。
自分なりに受け取った世界観を大雑把にくくると、ミステリ、冒険活劇、神話と恐怖譚、カタストロフィ。特に後半二篇は大好きです。
たぶん、著者が記述していること(理論や現象)の7割くらいしか理解は出来ていないと思うのだけど、書かれた文章を貪り読まずにはいられない。
読み手の私がぼんやりとしか受信出来ないのが残念ですが、発信されている世界観はカッチリとクリアで詳細、そして詩的。
そのためか、どれも五感に心地よく触れその先の六感に訴えかける、と私は思う。
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『夜と泥の』は、技術的な国生みち原始的な生命賛歌がねじれ合わさって女神創造へ至る謎解きと思っていたら、暗黒神話?といった流れにゾクリとする。
私は思わず目をとじていた。鼻だけでものが見えるのだ。匂いでえがかれたパノラマが目のまえにひろげられたようなものである。
泥の、甘い、よく熟れた匂いが宏大な背景となってひろがり、微熱をはなっている。その前景に沼じゅうのさまざまな臭気と芳香が立体的に配されていた。見事な色彩と精密な遠近法をそなえたパノラマだ。(後略)
『夜と泥の』より
「虎よ虎よ」や「メーゾン・ベルビウ地帯」が好きなので、この世界観でこれを持ってこられるだけで痺れまくりました。
『象られた力』は文庫本裏にもあるように、謎の消失を遂げた惑星<百合洋(ユリウミ)>とその言語体系を軸に展開していく物語。美しいカタストロフィ。
魅力的な建造物溢れる都市空間、煌びやかなガジェット、次々に入れ替わる語手、実態化していく不穏な気配、悲劇を拒むような狂騒的な崩壊連鎖、補遺にまで仕込まれた視覚(知覚?)の転換点。
特に、言語体系にある秘密の解明はウンベルト・エーコ的な官能終末幻想。
欲情にかすれた声だった。そうとも。ものを見ることは、見られることは、それほどに淫らなことなのだ。人は眼差しによって事物を犯し、見ることによって事物に犯される。だからこそ、人は見ずにいられない。形と、力を。
『象られた力』より
それにしても、百合洋(ユリウミ)とはなんとも美しい名前です。
植物的、大洋的、深海的、母的でもあり不可侵的でもあり、はかなさも感じる。
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あと、全く本筋から離れるのですが、この方の書く食事風景が毎回美味そうだなと思います。よだれが湧く。