「斬奸状は馬車に乗って 時代短篇選集2 山田風太郎」小学館文庫
題材を幕末から明治にかけて採っている短篇を集めた第二弾。
将軍様から名もなき青年までの、生き様というか翻弄されていく姿というか。
甘っちょろい言い方にすると、人生という制限時間も結末も解らない舞台に放り出された人間がそれぞれに躍り狂っていく様。
第一弾よりも、「大義」「信念」「正義」といったものを見据えている山田風太郎の醒めた目を感じる。
『斬奸状は馬車に乗って』潔白の人とは。表層は違えど世の中は現在も同じ。
『笊ノ目万兵衛門外へ』正しい人。美徳の不幸。哀れすぎる。
『獣人の獄』志が純粋、とやらの顛末。
『切腹禁止令』徹底したリアリストかと思いきや、まさかのオチ。
『大谷刑部は幕末に死ぬ』悲劇の英雄譚。そして、これが大義か?という問い掛け。
『陰萎将軍伝』実は明君だったのでは?説のある将軍の話。そこは山田風太郎流。
『明治暗黒星』潔白の人とは2。『斬奸状は馬車に乗って』の変奏曲。
天下のためと口にする志士たちの非道。ころりと変わる煩悩。
志士たちが貪官汚吏と罵る人物たちの肚の座った信念。
戸板一枚下は地獄ではないが、理想や信念の一皮剥けば…煩悩で転がり回る人間の様子を描いてみせている短篇集。
アノヒト偉そうにしててもこんな下衆ですよ!という今時の糾弾ではなく、こういう面だってあるでしょう?といった風太郎流のカラリとした黒いユーモア。