部屋の窓際

好きなものについて描いたり書いたり。

5月23日 読書メモ「グラン・ヴァカンス」


火曜日。終日雨。
大型連休明けから2週間。
ようやく身体が慣れてはきたものの、寒暖差が激し過ぎてぐったり気味。


朝。バナナとグラノーラ。蜂蜜入りのヨーグルト。定番。
昼。おにぎり2つ。梅とシャケ。とろろ昆布でデコレイト。揚げナス味噌汁。
夜。白米。豆入り野菜サラダ。甘酢に漬けたトマト。鶏肉のガーリックソテー。


夜の間食、かりんとう饅頭。煎茶は眠れなくなるのでコーヒー。
久々にお灸。


 

 


「グラン・ヴァカンス 廃園の天使I/飛浩隆ハヤカワ文庫JA


私にとって全く外れの無い作家、飛浩隆の作品。
短編集を読んだ後に、読まねば!と思いつつ手を出しかねていた。
あっという間(自分比)に読了。
読み進めることに葛藤しつつ(自分比)読了。


文庫本の裏表紙によるあらすじによると、

 


仮想リゾート<数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)>の一区画<夏の区界>。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在<蜘蛛>の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける  仮想と現実の闘争を描く<廃園の天使>シリーズ第1作。


実に端的にまとめられていて、まさにその通りの物語。
その通りなのだが、『一夜の攻防戦』という時系列(?)にあまりにも濃厚なものが詰め込まれている。


爽やかな導入部に、ちょっとビターな長野まゆみ世界を連想していたら、とんでもない世界に引き摺り込まれた。
まだ希望のあった一章から、読み進めるにつれ不穏な色が滲み始める。
三章ほどは、みんなの街を守るんだ!という反撃の物語かと思っていた。
四章で、不穏の色素がぶちまけられ、苦痛の物語が始まる。

徐々に判明する、悪趣味な目的のための街(夏の区界)と、そのAIである彼ら。
AIであるはずの彼らが受ける苦痛は、その生成の故だろうか。
無化、といえばサラリと存在が消え失せるようなイメージだが、彼らの苦痛は、まるで血膿の詰まった肉袋であるかのようだ。
1000年と50年余りのゆるやかに伸びきっていた苦痛を、一夜に凝縮して回収していくような自称自警団ランゴーニ。
何を読まされているんだ?と戸惑う残酷劇と、時間軸のめまいと、根底で揺るがない美しさ。


正直、何度か途中で読むのを止めようと思った。
苦痛描写に対する不快ではなく、もはや助かりっこ無い彼らの未来を見据えていられないという気分と(それほど彼らAIは魅力的だった)、巨大化する苦痛のその先を見届けないと後悔するという気持ち。

すごいものを読んだという満足感と、解消されない謎の断片と。
この詰め込まれた濃厚さを喩えるとすれば、柑橘類を握り締めたら溢れ出る甘苦い果汁だろうか。絞れば絞るほどいつまでも滴るような。




清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。飛にとってSFとはそのような文芸だからである。(巻末のノートより抜粋)

 

何よりも、これに尽きる。