部屋の窓際

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読書メモ「幻想と怪奇5」

 

 

「幻想と怪奇5 アメリカン・ゴシック E.A.ポーをめぐる二百年」新紀元社


ポーを起点としてポー以前以後ということか、と読了後にようやく気づく。

ポーからラヴクラフトまでという流れが重要なのか、ということにも読了後に気付く。

アメリカン・ゴシックという言葉に対し、私が連想するイメージは有名な油絵のあれではなく。南部の伝統的な特権階級とそれらを沼地から伺い取り巻く地霊といった、湿度混じりで薄暗く、かつギラつく世界。

 


新世界の夜陰に、は古き良きスリラー 。ホラーでは無い。

スリーピー・ホロウの伝説 ワシントン・アーヴィング」との出会いは映画からだったのですが、改めて読み直すと昔話という王道ジャンルな気がします。

「白の老嬢 ナサニエル・ホーソーン」が好み。

 

ポーと名乗った男は、ポー作品。御本家。

「ベレニス」「早すぎる埋葬」「ヴァルドマール氏の死の真相」。

紙数の都合は最優先として、何故この三つが選ばれたのか?ポー作品はもっと色彩豊かなのに同系色ばっかり?と無い知恵絞って、ポーが抱える死への執着をそれぞれの角度で紹介する意図?と想像。

 

アーバン・ゴシックは、「姿見 イーディス・ウォートン」が好み。

「七番街の錬金術師 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン」は紹介にもある通りO.ヘンリー味たっぷり。「サテンの仮面 オーガスト・ダーレス」は1960&70年代製作風味のテレビドラマで見てみたいかも。

 

ストレンジ・カントリーズは、英語直訳脳には???だったのですが、アーバンに対してか?と、うっすら見当をつける。

「藤の大木 シャーロット・バーキンス・ギルマン」が、まさに私の連想するアメリカン・ゴシック!な世界。これぞゴシック。

「クロウ先生の眼鏡 デイヴィス・グラップ」は、あの伝道師が出てくる「狩人の夜」の作者にしてはほのぼの…と思いきや、恩寵を叩き潰すような結末。穿ち過ぎ?

 

ポーの長い影、の三作品がポーの直系に連なる例だろうか。

テクニカラー ジョン・ランガン」が凄い。とある作品に関する講義からスタートし、そこまで突き抜けるかという快感。ポー以後、の一つの答え。

「屑拾い メラニー・テム」が恐怖。ゴシック小説の登場人物たちが感じるであろう、おぞましさを存分に感じる。

 

巻末にあるアメリカン・ゴシック関連著作年譜が、セイラム魔女裁判からラヴクラフトの没年までというのでニヤリとしましたが、初っ端がコットン・マザーの誕生から始まっていて、まさに編集部がニヤリとしているんだろうなと思いました。

 

 

ヨーロッパから流れ流れてきた嵐が丘の種子が、崩壊寸前のアッシャー家とその沼に潜み、狩人が跳梁する川面をプロヴィデンスの風が養分を運んで育んだ、という面もあるかも。

読書メモ「幻想と怪奇3」

 

 

「幻想と怪奇3 平井呈一と西洋怪談の愉しみ」新紀元社

 

私の中では〈西洋怪談〉〈ヴィクトリアン〉という言葉が示す領域は、だいぶこってりと混じり合っているようです。

それぞれの特集に組み込まれた作品がシャッフルされていたとしても、気にならないというか気づきもしないだろうという、編集者泣かせの読者ではありますが、面白かった!

 

 

全体的に怖さよりも古色蒼然という持ち味が重要なのかな、と。

最近得た付け焼き刃で言うならば、ホラーよりテラー。

 

平井呈一名訳選は怖さよりも語りの魅力。特に「池の子たち アーサー・マッケン」は語り重要。そっと挟まれる池の描写。「消えた心臓 M.R.ジェイムズ」と「謎のクリーオール事件 小泉八雲」は、素直に怪異譚の愉しみ。

怪談つれづれ草は、まさに古色蒼然。伝統的味わい、とでも言うべきか。

 

英国怪談精華選は、エンタメ色を感じる。

「幻のニーナ F.マリオン・クロフォード」や「屋根裏部屋の声 A.M.バイレジ」などは、このテーマを現代で起承転結の構成した場合は悲惨な結末になるのではと想像するが、救いがあって安堵。一番エンタメ要素豊富なのは「非聖遺物 M.P.デア」。

「白い蛾 シンシア・アスキス」は、なんというか。確かに怪異譚ではあるし、ある意味コメディでもあるが、サイコ要素も読み取るのは強引か。

 

現代西洋怪談集は、恐怖の焦点が移行した感。

「ジャスパーはそこにいる ラムジー・キャンベル」「闇に叫べば ジェマ・ファイルズ」などは、心理的精神的な現実的恐怖。私が現代の情報に浸かりすぎているせいか。

題名からして拒否反応が出るし(ある意味言いがかり)、自分の想像力をシャットアウトしたい展開の「ミスター・ケッチャム マイクル・チスレット」は確かにマッケンの系譜だと思う。ウィッカーマンやミッドサマーな世界を連想。

 

エンタメといえば、ショートショートの「紙の城館 井上雅彦」「白樺の家 奥田哲也」が読みやすい安心感。やっぱり怪談怪異譚といえば屋敷要素が欲しいのは日本人の感性か。そこも英国と近いのだろうか。

 

エッセイ「平井呈一とその時代 紀田順一郎」は必読。