序盤はもう投げ出そうかな、と思ったけど上巻中盤から波に乗り一気に読了。
幻想文学関連や象徴主義美術関連で散々タイトルを刷り込まれていたものの、読んでいなかった作品の一つ。あらすじを念頭に、古代文明を舞台にした絢爛豪華で無茶苦茶ド派手な恋愛ものか?(それこそオペラチックな)と思っていたら、割と情熱的かつ饒舌的に国家というか人間の興亡が展開。
純粋かつ凶暴なマトーや運命の女サラムボーより、その親父さんハミルカルの方が妙に印象に残る。あとハンノー。ハンノー強烈。私の貧弱な想像力では煌びやかに着飾ったジャバ・ザ・ハットが再生。
恋愛的な流れで見ると、女の笑みを見てしまったが為に運命を狂わすのは歌舞伎の籠釣瓶花街酔醒に通じるなあと思ったり。その後に凶刃が乱舞する様も(だいぶシチュエーションは異なりますが)。
好きだ!おまえが好きだ!
サラムボー(下)P76
この根っこで行動しているマトーが哀れとも愚かしいとも、いっそ幸せそうにも見えてくる。もっと強烈な存在かと思ったサラムボーは、むしろ翻弄される乙女。
そして、恋愛要素に鈍感なのは私の感性にもよりますが、作品中に存在を主張する残虐描写も一因ではないかと。これまた実に丁寧に至るところに散りばめられている。それこそ鏤められて、と言いたいほどに。
モロックの章にゾクゾクしてしまったことは正直に認めざるを得ない。
「(小説の筋などはどうでもいいことで)小説を書くときに私が考えるのは、ある色、色調を出すことだけだ。たとえば今度のカルタゴ小説では何か緋色のものを作り出したい」(ゴンクール兄弟『日記』)
サラムボー(上)P69注釈より
序盤にこの注釈を読んだ時には絢爛豪華な装飾品のことかと思っていたけど、読了後にはもっと広大な緋色に染まった世界だと思い知る。
華麗なマントや煌びやかな宝石の緋色、日輪や大地の緋色、いろいろなモノを呑み込み嘗め尽くす炎・焔の緋色、そして人肉から迸る様々な緋色。