部屋の窓際

好きなものについて描いたり書いたり。

夏の思い出読書メモ「光車よ、まわれ!」

 毎年、欠かさず夏に借りていた本がるあるのですが。

この疫病禍で図書館利用出来なかったため、思い出に耽ってみます。

 

 

「光車よ、まわれ! 天沢退二郎ちくま文庫

大人になる前に読むという幸運は逃したものの、図書館で借りることが出来る本。

幸か不幸かそれがちくま文庫版だった。


これが児童文学か、という衝撃。

ジュブナイルという単語はあまりにも遠く、暗黒の童話などという言葉にも当てはまらないこの物語。子供達が魔物を退治する、などという単純なものではない。

 

日常が、或る日すっと薄皮一枚ずれていく。冒険、という輝かしい日々ではない。

正解とも解決ともはっきりと示されないあの物語は、ある種の説話だろうか。

まつろわぬ神、イニシエーション、貴種流離譚の変形、等々いろんな解釈が可能かもしれない。大袈裟かもしれないが、ニーチェの言葉【深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ】が思い出される。


こわいけど覗きたくなるまっくらな世界(それはとても根源的な恐怖と好奇心)。

それを文章と絵で同時に味わってしまった幸福。あるいは不幸。

 


今現在は復刊されているので手元に置くことも可能なのだが、初読の衝撃が大きいため『カバー装画・さしえ 司修』のちくま文庫版でないと満足出来なくなってしまった。