部屋の窓際

好きなものについて描いたり書いたり。

9月3日 読書メモ「世界の終わりの天文台」


日曜日。雲多いが、まだ晴天。
昨日よりは空気が蒸す。7時を過ぎればすでに暑い。


朝。チーズトースト。バナナ。ヨーグルト。アイスコーヒー。

いよいよタブレット買い替えか、と思ったら本体も替え時と言われる。
この夏、財布への波状攻撃が続く。しばらく様子見。

アイス齧りながら読書メモ。




夏休み期間中に読了。
読了直後は静かな震えを感じたのに、忘れていってしまうのが悔しい。
読書の記憶は脳内に沈殿してしまうので、せめてメモる。

 

「世界の終わりの天文台 リリー・ブルックスダルトン/佐田千織訳」創元SF文庫

裏表紙にある紹介文は以下のとおり。


どうやら人類は滅亡するらしい。最後の撤収便に乗ることを拒み、北極圏の天文台に残った孤独な老学者は、取り残された幼い少女とふたりきりの奇妙な同居生活を始める。一方、帰還途中だった木星探査船の乗組員は、地球との通信が途絶えて不安に駆られながらも航行を続ける。旅路の果てに彼らは何を見つけるのか?ジョージ・クルーニー監督主演『ミッドナイト・スカイ』原作


地球上ではどうやら戦争が起こりつつある(あった)らしい。

北極圏に望んで取り残された老化学者オーガスティンは、突如現れた幼い少女アイリスに仰天。慌てて彼女の救助を要請しようとするが、地上は既に無反応となっていた。
極めて優秀で華々しい功績もあるオーガスティンは、家族を作ることを頑なに拒んだ。

長い航海から地球への帰途にある探査船アイテルは、地球からの通信が一切途絶えたことに不安を覚える。興奮に満ちた探査の記憶が色褪せるほどに苦悩を深めていくクルーたち。
クルーの一人であるサリーは、過去に二度家族を失っていた。

広大な白く閉ざされた大地で、老いた自身の体と向き合い、不思議な少女と生きるための冒険をしながら過去を見つめる度合いを増していくオーガスティン。
家族を持たないと決断するに至る幼少期からの回想は、家族になれたかもしれない女性と後に知ることになる娘の存在を何度も巡る。深く深く巡る。

広大な宇宙に浮かぶ閉ざされた探査船で間たちとの軋轢とその修復を繰り返し、自身の失われた二つの家族(夢を諦め再婚した母)(夢のために失ってしまった夫と娘)をトレースするかのごとく眺め、もし、を繰り返すサリー。

両者とも、愛を拒んで愛に飢えているのか、愛という形そのものがよくわからないのか。

宇宙に憧れた人々の話なので、そういうガジェットはたくさんある。
しかし、たぶんメインはひたすらに静かな追想。思索、といってもいいかもしれない。


確かなことは何も記されていない。
何が原因でこうなったの説明も無いし、その結果も最後まで分からない。
確実なのは、北極圏に老人が一人残ったことと、木星探査船が地球に帰還しつつあること。
地上からの情報も通信も一切途絶えていること。


これはSFでは無い、という感想もあると思う。
なんのアンサーも無いこの物語は、外宇宙は背景であり、内宇宙は入り口付近か。
オーガスティンは、すでに内宇宙に没入していたのだろうか)
しかし、あの結末の先にあるのは、なんらかの形態を見せる外宇宙かもしれないし、記憶のアルバムたちの階段を辿って内宇宙へ到達するかもしれない。


閉ざされた空間でさえあれば可能な題材かもしれないけれど、でもやはり宇宙は、星は、必要だったのだと思う。
理不尽すぎる事態への怒りすら昇華してしまう静かな美しい終末。
しかし、燻り続ける希望、と私は読んだ。


とても静かで丁寧な描写。読み飛ばさずに、ゆっくり文章を味わう。
春の訪れとともにたどり着いた北極圏のオアシスの光景は実に美しかった。