部屋の窓際

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11月27日 読書メモ「海鰻荘奇談」


月曜日。まあまあ晴れ。
日の出の頃は雲多く、日の入りの頃にも雲で埋まる。
気候はいろいろおかしいが、あちらもこちらも秋の色彩。


朝。バナナ。グラノーラ。ヨーグルト。ポタージュ。
昼。けんちんうどん。温野菜サラダ。
夜。白米。納豆。大根と厚揚げの煮物。なめこ、小松菜、豆腐の味噌汁。焼鮭。

食後に一口羊羹。ノンカフェインなお茶。


大河はいよいよ終盤。
家康の老けメイクを凌駕する氏真老けメイク。すげぇ。
淀殿もさらっとメイクしてる気がするのだが、思い込みか?中の人ってもっとすらっと清潔感ある麗しさだけど、今の淀殿谷崎潤一郎あたりが大喜びしそうな脂の乗り具合。
予告編で微笑みを誘った秀忠の場面が、あんなに切ない「負ける自信がある!」だとは思わなかった。


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「海鰻荘奇談 香山滋傑作選/日下三蔵編」河出文庫

『オラン・ペンデクの復讐』
『オラン・ペンデク後日譚』
『オラン・ペンデク射殺事件』
『海鰻荘奇談』
『海鰻荘後日談』
『処女水』
『蜥蜴の島』
『月ぞ悪魔』
『蝋燭売り』
『妖蝶記』

真夏に読んだ記憶を、寒さを凌ぎつつメモ。
実は過去に一度挫折した経緯あり。今回は一気に読了。
やはり読書も『時』が重要か。今年の夏は『読むべき時』だった、と思い込む。

ちなみに、挫折の理由はオラン・ペンデクの三部作の初っ端でついていけなかった。
しかし今回は、宮川博士の講演にじっくり耳を(目を?)澄ませ、湿度に覆われ色彩に塗りたくられたような悪夢に無事没入。総天然フルカラー。極彩色。

溢れんばかりの怪奇趣味と、鮮やかな色彩を纏った博物学的浪漫と、過剰にガッチリ組み合っているエロスとタナトスと、なんかその他いろいろ混ざって捏ね上げた世界は、グラン・ギニョール的哄笑すらも跳ね除ける獰猛さが充満。



特に好きなのはやはりタイトルにもある『海鰻荘奇談』。
舞台となる「海鰻荘」そのものが誕生から変貌まで異様なシチュエーションを誇る館であり、そこにまた癖ありすぎの家族が住まい、グロテスク過ぎる事件が発生、謎解きで明かされる事実はすっきりした真実よりも夢魔的な世界を表出させる。

プールには新婚の夫婦になぞらえて金王魚“ゴールデン・モナーク”(Symphysodon discus)、天使魚“シルヴァー・エンゼル”(Pterophyllum scalare)各三万組を放ったということです。こrは博士が、独逸ハンブルグの熱帯魚商に発注し、その魚商は特別仕立の汽船三隻を南米アマゾンに派遣したそうです。大鬼蓮(Victoria regia)は四時巨大な花を浮べ、マンゴー(Garcinia mangostina)は求るままに実を絶やさず、おおるりあげは(Papillio Malayana)と極楽鳥(Paradisea apoda)とは、この大温室に孵化するとさえいわれたものです。温室内の空気は、数千種の蘭から放たれる芳香に醞醸され、初めて歩を入れたものは呼吸困難に陥るとさえ云われていました、(略)
                【海鰻荘奇談】より


過剰なる世界。まさにグロテスク。

プールはあの地上天国ではない。醜怪な『うつぼ』の群がもつれあい、巨大な水生羊歯が職種のような渦芽をふりあげ、死頭蛾“スフィンクス”が赤い鱗粉をまき散らし、毒蕈が悪臭のある粘液を滴り流す地獄だ。
                 【海鰻荘奇談】より


思惑があるからこそ造り上げた館というより、こんな舞台を整えてしまったからこそ博士と真耶の異様な関係が成立してしまったんじゃ無いかとすら思う。
裏切られた憎悪に凝り固まった復讐鬼と、復讐すら弄んでいる魔性の存在。



『海鰻荘後日談』『蜥蜴の島』『月ぞ悪魔』も好み。心地よい悪夢。
『オラン・ペンデク』三部作は、いろいろとヤバイ問題がさらっと混入。現在の技術で実写化したら、幻想怪奇ものになるのかSF系になるのか。
『妖蝶記』は、最終的にはめでたしめでたしだけど、なかなかにエロチックでグロい。パピの容姿は手塚治虫なビジュアルが浮かぶ。
収録された短編の中では『蝋燭売り』がちょっと異色に感じる。